Gus Van Sant’s death trip, “Last days” | ガス・ヴァン・サント「ラスト デイズ」

あくまでもカート・コバーンをモデルに、自殺する人間の最後の二日間を綴った映画「ラスト・デイズ」。あまりにも痛々しく孤独で惨めな姿は、とても見ていられないと感じる人もいるのではないかと思う。ちなみに、これより前に製作された「Gerry」、「Elepahnt」、「Last Days」をあわせて、Death Trilogy と呼ばれていて、どれも死にまつわる事件を題材にしています。

冒頭、森の中をパジャマ姿のブレイク(マイケル・ピット)が歩いていきます。監督はあるインタビューで、このシーンは社会人類学者ジェームズ・フレイザーの「金枝篇」(The Golden Bough)の始まりに似ていると話しています。カリスマ的にもてはやされたカート・コバーンを、殺された「森の王」と重ね合わせているのでしょうか。フレイザーがその大作で追究した原始宗教や神話、生け贄にまつわる儀式、慣習など、複雑な意味がこのシーンには織り込まれているようです。

この映画のモデルであるカート・コバーンのバンド、Nirvanaは承知の通り、サンスクリットの涅槃を意味する仏教用語です。煩悩の火を消して一切の悩みや束縛から脱した悟りの境地、釈迦の死を意味します。ブレイクの肉体から魂が抜け出る様子を示したかのようなエンディングを見ると、まるでカート・コバーンの死はあらかじめ予言されていたかのような運命性を感じさせます。

ブレイクという名前を付けているのは、英国の詩人ウィリアム・ブレイクを意識してのことでしょう。仏陀の像が置かれたリビングルームは、All Religions are OneというW・ブレイクの箴言を象徴しているようだし、何度も映し出される屋敷の扉は、The Doorsのバンド名の由来にもなった詩集、The Doors of Perceptionを思い出させます。

W・ブレイクは19世紀にイギリスで起こったfree love movementの先駆者とも看做されており、神秘主義的、宗教的な作風が強調されがちですが、当時では、とてもラディカルな思想の持ち主だったと言えるのでしょう。自らゲイであることを公表している監督は、それを表すシーンをこの映画でも織り込んでいて、晩年、人間性の復興を謳い、ルネサンスの萌芽となったダンテの「神曲」に傾倒したブレイクの思想をこの映画に散りばめているようです。

It might be nice to eventually start playing acoustic guitar and be sort of
a singer and song writer rather than grunge rocker, you know, because then I might be able to take advantage of that when I’m older and sit down on a chair and play acoustic guitar like a Johnny Cash or something…
(Nirvana interview on Metal Express in 1994)

これはカート・コバーンが死ぬ8ヶ月前のインタビューからの抜粋です。

自殺の善悪についての云々はもはやどうでもよく、ただ、カート・コバーンがもし生き存えていたら、あの、MTVアンプラグドのようなアコースティックライブをリアルタイムで聴けたかもしれない、そんなことをふと思ってしまうのです。

Last Days(2005)

Directed by Gus Van Sant
Written by Gus Van Sant
Starring Michael Pitt, Lukas Haas, Asia Argento, Scott Patrick Green, Nicole Vicius, Thadeus A. Thomas
Release date(s): July 22, 2005
Running time: 97 minutes
Country: United States
Language: English

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