No music, no life. 映画『Begin Again』(はじまりのうた)が奏でる再生の物語

リアルライフ。私たちの人生は映画やドラマのように突然音楽が流れてきたりしない。一人だけで過ごす空虚な時間や、会話のない恋人との時間を盛り上げてくれる挿入歌なんてないのが本当の人生。しかも、本気で心が萎えきってどん底のときは、音楽に手を伸ばすことすらできないときもある。でも、そんなリアルな生活の中でお気に入りの歌がそっと流れてきて、いつの間にか時が流れるのを忘れて聴き入ってたり、このタイミングでこの曲が流れるなんて、というようなドラマチックな瞬間があったりするのもまたリアルライフだったりする。

意味もなくこんな映画ブログを書いているのは映画が好きだから。映像と言葉、そこに選び抜かれた曲がのって物語が流れていく。映画は私たちの人生をステージにあげてくれるようなものかもしれない。一人一人の人生が物語るに十分なストーリーを持っていることを教えてくれる。同じ人生は二つとない、すべてがオリジナルであることを。

映画『Begin Again』(はじまりのうた)は音楽の力によって人がもう一度生きなおすことができることを教えてくれる。あの『Once』のジョン・カーニー監督の作品であることは映画を見終わってから知った。主演はキーラ・ナイトレイとマーク・ラファロ。その他に、アダム・レヴィーン(Maroon5)やヘイリー・スタインフェルドが脇役で出演している。

キーラ・ナイトレイがものすごいクラシックなタイプの音楽ファン兼シンガーソングライターを演じていて、今の音楽業界に痛烈な批判を浴びせるようなセリフがあって面白い。確かに映画『アニー・ホール』のダイアン・キートンを彷彿とさせるところがあって、悪く言えば時代錯誤、良く言えばとことんピュアなのである。

落ちぶれた音楽プロデューサー役のマーク・ラファロが本当にいい味を出してくれていてあらためていい俳優さんだなと思った。あの『エターナルサンシャイン』に出演してたときはちょい役だったけど、印象に残るお芝居をしていたのを覚えている。

That’s what I love about music. One of the most banal scenes is suddenly invested…with so much meaning. All these banalities.They’re suddenly turned into these…these beautiful, effervescent pearls. From music. I’ve gotta say, as I’ve gotten older these pearls…are just becoming increasingly more and more rare to me.

これはこの映画の中一番好きなセリフ。音楽は生きている世界を一変してくれる真珠なんだと言う。そしてその真珠は歳を重ねるごとに希少になっていくと。

ラストを飾るのはアダム・レヴィーン(Maroon5)の歌う『Lost Stars』。作曲者はグレッグ・アレキサンダー(ニュー・ラディカルズ)。極めてMaroon5のファンというわけではないけど、この締めはさすが。歌詞は聖書のモチーフも出てくるのでどこか神秘的でとても綺麗な楽曲だ。

“Lost Stars”

Please don’t see
Just a boy caught up in dreams and fantasies
Please see me
Reaching out for someone I can’t see

Take my hand, let’s see where we wake up tomorrow
Best laid plans sometimes are just a one night stand
I’ll be damned, Cupid’s demanding back his arrow
So let’s get drunk on our tears

And God, tell us the reason youth is wasted on the young
It’s hunting season and the lambs are on the run
Searching for meaning
But are we all lost stars trying to light up the dark?

Who are we?
Just a speck of dust within the galaxy?
Woe is me
If we’re not careful turns into reality

But don’t you dare let our best memories bring you sorrow
Yesterday I saw a lion kiss a deer
Turn the page, maybe we’ll find a brand new ending
Where we’re dancing in our tears

And God, tell us the reason youth is wasted on the young
It’s hunting season and the lambs are on the run
Searching for meaning
But are we all lost stars trying to light up the dark?

And I thought I saw you out there crying
And I thought I heard you call my name
And I thought I heard you out there crying
Just the same

And God, give us the reason youth is wasted on the young
It’s hunting season and this lamb is on the run
Searching for meaning
But are we all lost stars trying to light … light up the dark?

And I thought I saw you out there crying
And I thought I heard you call my name
And I thought I heard you out there crying
But are we all lost stars trying to light up the dark?
Are we all lost stars trying to light up the dark?

お願いだ 僕を見ないでくれ
夢と空想から抜け出せるわけじゃない
お願いだ 僕を見てくれ
まだ見ぬ君に手を伸ばしているんだ
この手を取って明日はどこで目覚める?
期待が外れて一夜限りのこともある
キューピッドが矢を返せと言ってるよ
今夜は涙に濡れて酔おうよ

神様 理由を教えて 青春が過ぎていくよ
狩りのシーズンに 子羊たちは走り惑う 意味を探して
僕らはさまよう星たち?
闇夜を照らすだけなのかな?

僕らは何者?銀河の小さなチリだね
僕は悲しいよ 不安が現実になったんだね
思い出を悲しみに変えないで
昨日はライオンがバンビにキスしてた
ページをめくれば別の結末が待ってる
今夜は涙に濡れて踊ろうよ

神様が教えてくれるよ 青春が過ぎていく
狩りのシーズンに 子羊たちは走り惑う 意味を探して
僕らはさまよう星たち?
闇夜を照らすだけなのかな?

君は泣いてたよね
僕の名を呼んだよね?
声を上げて泣いてたよね?
何も変わってないよ

Begin Again(2014)
Begin_Again_film_poster_2014Directed by John Carney
Written by John Carney
Starring: Keira Knightley, Mark Ruffalo, Adam Levine, James Corden, Hailee Steinfeld, Yasiin Bey, CeeLo Green,Catherine Keener,Mos Def
Music by Gregg Alexander
Cinematography Yaron Orbach
Release dates
September 7, 2013 (TIFF)
June 27, 2014 (United States)
Running time: 104 minutes
Country: United States
Language: English

Bittersweet first love story, “The Spectacular Now (2013)”

見終わった後、物語の続きをつい想像してしまう映画はたいてい好きな作品にだけあてはまることで、この映画の場合もそうだった。エンディング、主人公のサター(Miles Teller)は、別れの挨拶もしないまま離ればなれになったガールフレンドのエイミー(Shailene Woodley)に会いに行く。フィラデルフィアの大学のキャンパスでちょっと大人っぽくなったエイミーを見つける。スクリーンは複雑な表情のエイミーをアップで映し出したところで終了。見終わった観客はそれぞれにその後の二人の展開を想像するに違いない。

この映画、日本では未公開なので、簡単にあらすじを紹介。

享楽的に今を生きる18歳(高校3年)のサターは、チャーミングでクール、テーラーショップでアルバイトし、愛車と酒とパーティが大好き。将来のプランは特になし。大好きな彼女のキャシディに振られた夜、酔いつぶれて見知らぬ人家の庭先で眠ってしまう。翌朝サターを見つけたのは家計を助けるために新聞配達のバイトをしていたエイミーだった。全く自分とは異なるタイプの彼女に興味を抱いたサターはパーティに誘ったり宿題の手伝いをお願いしたりと一緒の時間を過ごすようになる。キャシディのような人気者ではないが、真面目で賢いエイミーにサターは次第に惹かれていくのだが。。。

アメリカには”Coming of age movie”、いわゆる青春映画というジャンルがはっきりと存在していて、しょうもない内容のものからけっこう質の高い映画まで色々ある。どんな青春映画に出演するかでその俳優の特性がわかるような気もする。アメリカで青春映画が大きな位置を占めているのは、単純に高校時代は大学に入る前の通過点ではない、社会に出るための子供から大人に変わる非情に重要な時期という認識が強いからだろう。では、歳をとった大人が青春映画を観る楽しみって一体何なんだろう。消化しきれていない青春時代をせめて映画のなかで追体験したり、単純にノスタルジックな気分に浸るためだけ?楽しみ方は人それぞれ自由だし、映画自体を楽しめたらそれだけでいいことなのだろうけど。ちなみにこの映画の好き嫌いは、ほぼ、主人公サターを魅力的な人物として共感できるかどうかによるかもしれない。

サターとエイミーはどちらも父不在で育った点で共通している。エイミーはすでに父不在を克服し、将来に対する明確なビジョンを描いている女の子だ。そんな彼女がサターに出会って、ものすごく好きになって、サターの色に染まる喜びを知る。普通だったらサターを振ったキャシディ(Brie Larson)のように日常的に酒を口にするような男の子とは付き合いたくない。サターにとってエイミーはある意味天使のような存在となる。サターはキャシディにずっと魅力を感じ続け未練たらたらなのだけど、自分にはないものを求めるキャシディではなく、エイミーを真摯に愛したいと思うようになっていく。観ていて胸がキュンとなる、超ラブリーな関係を築いていくところは見所。

サターは誤解されがちなキャラクターではあるのだけど、ありのままの今を丸ごと愛そうとする大らかさがある。キャシディの新しい恋人となったマーカスを一生懸命勇気づけ、アドバイスするところなどは性格の良さが表れていて面白い。けれど、サターは「今がすべて」という生き方を明日につなげることができない。父不在の喪失感で何かに傷つくことを無意識のうちに恐れ、結果的に酒を飲むことで逃避を続けている。そうした状況の中、エイミーに大学進学の希望を母に打ち明け、母に立ち向かうことをアドバイスしていたサターは、今度はあなたの番よと、エイミーから母と向き合い父の連絡先を聞くことを迫られる。

離婚した家庭で母がよく父の悪口を言ったり、そんな父に似ていると言って子供を傷つけることはよくある問題で、サターの母(Jennifer Jason Leigh)も言うことを聞かないサターにそんな不平を漏らす。母は父の連絡先を頑に教えようとしないため、姉ホリー(Mary Elizabeth Winstead)を問いただし、ついに連絡先を手に入れる。さっそく電話をかけた父(Kyle Chandler)はいつでも会いに来ていいと、快くサターを受け入れるのだが、実際に会った父は完全に大人になることを放棄した子供同然の駄目男。家から父を追い出したのは母ではなく、父が自ら家を出て行ったことを告白する。子供と接するよりも酒に溺れる父にショックを受けたサターは自暴自棄になる。帰る道すがらエイミーと口論になり、交通事故で怪我をさせてしまうのだが、エイミーはサターのことを許し責めることは一切ない。

サターは酒が原因でテーラーショップでの仕事を辞めることになる。フィラデルフィアに出発するエイミーの見送りもまともにできず、ある晩、泥酔して帰宅したところで母と喧嘩。父に似た自分を誰も愛してはくれないと涙を流す。そんな息子を必死で励ます母の言葉に胸がジンとなる。実際のところ、このままサターがとっている行動を続けていれば、あの父と同じような人生が待っていることは確か。エイミーを傷つけ、将来の展望もない。自分が何をしたいのかもわからない。サターはいよいよ自分と向き合わざるを得なくなっていく。

最初に触れたように、この物語の続きを想像するとしたら、どんなシナリオを思い描くだろうか。サターは失いかけたかけがえのない存在を取り戻すことはできるだろうか。答えはノーかもしれない。けれど、エイミーが純粋にサターに恋をし、好きだよと心から言ってくれた瞬間は、記憶の中で永遠のものとなって生き続ける。しかも、それは二度と巡ってくることはない、青春という時期にだけ起こすことができた二人の奇跡だった。そして観客である大人たちはそれぞれの青春時代を振り返り、その煌めきの尊さにただどうしようもなく胸が熱くなるのだろう。

My name is Sutter Keely and I’m 18 years old.
Compared to other kids, I haven’t had that many hardships. Not really.
You know. Shit’s happened. Stuff’s happened, sure, but, stuff always happens, right?
But the real challenge in my life, the real hardship, is me. It’s always been me.
As long as I can remember, I’ve never not been afraid.
Afraid of failure. Of letting people down. Hurting people. Getting hurt.
I thought if I kept my guard up and focused on other things, other people… If I couldn’t even feel, well, then no harm would come to me.
I screwed up. Not only did I shut out the pain, I shut out everything.
The good and the bad. Until there was nothing.
It’s fine to just “live in the now”.
But the best part about “now” is there’s another one tomorrow.
And I’m gonna start making them count.

Sincerely, Sutter Keely.

P.S. I don’t know if this was due a long time ago.Probably was. But that’s fine. It may be too late for this essay. It’s not too late for me.

The Spectacular Now (2013)
The_Spectacular_Now_film Directed by James Ponsoldt
Screenplay by Scott Neustadter, Michael H. Weber
Based on The Spectacular Now by Tim Tharp
Starring: Miles Teller,Shailene Woodley,Brie Larson,Mary Elizabeth Winstead
Bob Odenkirk,Jennifer Jason Leigh,Kyle Chandler
Music by Rob Simonsen
Release dates
January 18, 2013 (Sundance)
August 2, 2013 (United States, limited)
Running time: 95 minutes
Country United States
Language English

補足
この日本未公開の「The Spectacular Now」(原題)という映画がアメリカで公開されたのはもう3年前のこと。当時インディペンデント系の映画でものすごく好評だったのは記憶していたのですが、先日、「Whiplash」(セッション)を観た後、この映画に出ていたのは同じMiles Tellerであることを知り、ちょっとびっくりしました。何せ、セッションのMiles Tellerの演技のインパクトはものすごかったので。最初に画面に登場したときのものすごく陰鬱な表情でほぼ映画のイメージが掴めました。「The Spectacular Now」のジェームズ・ポンソルド監督は、「Rabbit Hole」と「Footloose」で全く正反対のキャラクターを演じていたMiles Tellerを観て採用することにしたらしいです。確かに、どちらも全然違うキャラクターを魅力的に演じています。

The Reader -「愛を読むひと」(2008)

「ぼくたちはただ驚愕と恥と罪のなかで沈黙すべきなのだろうか?」(朗読者より抜粋)

ずいぶん前に観た映画「愛を読むひと」のことを思い出して、ベルンハルト・シュリンクの原作「朗読者」を読んだ。出版当時、ベストセラーでかなり話題になっていたにもかかわらず、読まずにいてずっと心にひっかかっていた小説だ。

映画を初めて観たとき、なぜハンナは自殺しなければならなかったのか理解できず、絶望感だけがあとをひく映画という印象が強かった。実際に小説を読んでみると、これは明らかにホロコーストについて書くために作者が創造した恋愛小説なのだと認識した。そして理解できたというよりも、ハンナを沈黙させたままにしておくことに意味があり、解決できない問いをこれからも提起し続ける物語なのだと思った。

「ハンナを愛することによる苦しみが、ある程度ぼくの世代の運命でもあり、ドイツの運命を象徴し、そしてぼくの場合はそこから抜け出たり乗り越えたりするのが他の人よりむずかしいのだ、と言われても、それが何の慰めになったろう」(朗読者より抜粋)

現代の一般的なドイツの人たちが、どれほどの当事者意識を持ってホロコーストと向き合っているかなど、私には知り得ないことだけれど、あらためてドイツにおけるこの問題の根深さを思い知らされる。親の世代が犯した罪となれば、続く世代がどのようにこの問題と向き合っていくべきなのか、この小説は問いかける。ハンナという女性を愛することで、ただの傍観者として過去の罪を裁くことができない主人公ミヒャエルの葛藤は、時代や社会的背景は違っていても自分に置き換えて考えてみることはできる。

映画の中である学生はハンナに対する嫌悪感をむき出しにする。銃で射殺したいと。これはホロコーストを知る人であればある意味健全な反応と言えるのだろう。また別の学生はそんな過去を隠そうとする親を愛せるわけがないと言う。こうした考えは第三者としての拒否反応であり、そこに当事者意識はない。この作品が問いかけるのは、そこに愛が入り込んだとき、物事は複雑になるというリアリティだ。つまり、傍観者になれるということはそこに情緒の入り込む余地がないということで、それは何かしら麻痺した状態ということになるのだろう。麻痺した状態では何かに没入することはできないし、人を愛することもできない。そのような状態にあるとき、もし第二、第三のホロコーストが起きてしまったとしたらどうなるのだろうか、そんなことを考えさせられた。

日本に住む者としてはホロコーストは遠い問題ではあるけれど、この時代に生きる一個人として問うべき私たちのホロコーストは何だろうかと思った。法律では裁けない罪の問題を文学に委ねた本作品から学ぶことは多い。そしておそらく、それぞれが向き合うべきホロコーストを私たちの問題として引き受け、語り続けることに本当の救いがあるのだろう。

I’m not frightened. I’m not frightened of anything. The more I suffer, the more I love. Danger will only increase my love. It will sharpen it, it will give it spice. I will be the only angel you need. You will leave life even more beautiful than you entered it. Heaven will take you back and look at you and say: Only one thing can make a soul complete, and that thing is love.

 

The Reader (2008)
the reader
Directed by Stephen Daldry
Produced by Anthony Minghella,Sydney Pollack,Donna Gigliotti,Redmond Morris
Screenplay by David Hare
Based on The Reader by Bernhard Schlink
Starring: Kate Winslet, Ralph Fiennes, David Kross, Lena Olin, Bruno Ganz
Music by Nico Muhly
Release dates
December 12, 2008 (US: Limited)
February 6, 2009 (Berlin)
February 26, 2009 (Germany)
Running time: 124 minutes
Country United States, Germany
Language: English,German,Greek,Latin

愛を読むひと
aiyomuhito
監督: スティーブン・ダルドリー
脚本: デヴィッド・ヘアー
原作: ベルンハルト・シュリンク『朗読者』
製作: アンソニー・ミンゲラ,シドニー・ポラック,ドナ・ジグリオッティ,レッドモンド・モリス
製作総指揮: ボブ・ワインスタイン, ハーヴェイ・ワインスタイン
出演者: ケイト・ウィンスレット, レイフ・ファインズ, デヴィッド・クロス