Be yourself and not give up. Peter Bogdanovich “The Thing Called Love” (1993) | ピーター・ボグダノヴィッチ監督「愛と呼ばれるもの」

1990年代初頭、1960年代から1970年代前半生まれの20代の若者たちのことを“Generation X”と呼んでいたのを覚えているだろうか。それを象徴する映画と言えば、1994年にヒットした「Reality Bites(リアリティ・バイツ)」がある。思い返せば、映画館で見た少ない映画の一つだけど、好きな映画にあげたことは一度もない。サウンドトラックが売れまくっていたので、今でも好きな曲はあるのだけど、内容はトレンディドラマの延長線上って感じだった。

一方、この「Things called love」という映画も同じGen X の若者たちを描いた作品なのだけど、1993年の公開当時の成績はいまいちだった。とは言え、今でもカルト的な人気はあるようで、よくよく見ていると出演者はかなり濃い。この映画に出演したのがきっかけで「スピード」のヒロインに抜擢されたサンドラ・ブロック(Sandra Bullock)もいい味を出しているし、ジョン・カサヴェテスの娘、ゾエ・カサヴェテスも脇役で出演している。

リバー・フェニックス(River Phoenix)が麻薬の過剰摂取で急死したためか、公開時のポスターにリバー・フェニックスの姿はない。映画のジャンルとしてはラブコメディだから全然重くないし、純粋に見て楽しめる。たぶん、カントリーミュージシャンを夢見る若者たちってところが、少々世のトレンドとずれていたのかも。でも、テイラー・スウィフト(Tayler Swift)のように、今でもカントリーミュージシャンの歌姫は売れているし、ロレッタ・リン(Lorreta Lynn)の生涯のようなアメリカンドリームの象徴であることに変わりはないのかもしれない。

そもそも、カントリーミュージックという音楽ジャンルが存在すること知ったのは、1995年に初めてアメリカを訪れたときだった。フォークソングやブルースは知っていても、ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash)の曲がカントリーミュージックであることは知らなかった。その頃、メインストリームでシャナイア・トゥエイン(Shania Twai)というカントリーミュージシャンが売れていたのは新鮮な驚きだった。なので、この映画でエルビス・プレスリーのファンだった父の影響を受け、カントリーミュージシャンを目指す主人公、Miranda Presley(サマンサ・マシス:Samantha Mathis)がニューヨークから南部のメンフィスを目指すという設定は、アメリカにおけるカントリーミュージックの位置づけを知らないと違和感を感じるかもしれない。要は、Gen Xと呼ばれていた世代に向けて、夢を持つこと、古き良きアメリカ的な一面を見せようとする試みがあったのだろう。

映画の冒頭、9.11で破壊されたツインタワーを背に、Mirandaを乗せた長距離バスが画面の左から手前に向かって走ってくる。1993年の映画だから当然なのだけど、ツインタワーがまだそこにあることに軽く意表をつかれる。監督曰く、ニューヨークを端的に表すものとしてこの景色を使うことにしたそうだが、今となっては悲劇の象徴となってしまった。ちなみに、9.11以降のブッシュ政権のイラク攻撃を批判したディクシー・チックス(Dixie Chicks)のボーカル、ナタリイ・メインズ(Natalie Maines)の発言はかなり烈しい論争を巻き起こした。当時そんなことが起きているとは全く知らなかったけれど、その様子は「Shut Up & Sing」というドキュメンタリー映画になっている。

リバー・フェニックスの起用に関しては、この映画には名前が大きすぎると思われていたようで、最終的に監督の「The Last Picture Show」(1971)を観て出演を希望したリバー・フェニックスの意向に応じ、監督も快諾したよう。リバー・フェニックスはAleka’s Atticというバンドをやっていたので、音楽映画に興味があったようだし、自作した曲を映画の中で演奏したいという希望もあっての出演だった。監督はインタビューの中でこんなエピソードを語っている。

There was karaoke, so everybody started singing. And of course, at one point everybody started singing, “Peter, let’s go Peter singing.” So a chant went up, “Peter, Peter, Peter.” I said, “I’m not gonna sing.” River says, “Yes, you are.” And he says, “I want you to sing for me.” Well, I couldn’t deny River anything, so I said , “All right.” And I looked at the list of what they had in karaoke, and the only I sort of knew, was Sinatra’s My way. I sang that song and I looked down at River watching me, and he had tears in his eyes. He was so …He was so on my side. He was so with me, you know, that it was very touching to me. And that’s what he was like. He was one of the sweetest people I’ve ever known.

結果的にこの映画はリバー・フェニックスが成熟した大人として出演した最初で最後の作品である。遺作(完成作品として)となってしまったのが残念でならない。もし今も生きていたら、どんな映画を選び出演していただろうと想像せずにはいられない。

The Thing Called Love(1993)
ThingCalledLove
Directed by Peter Bogdanovich
Starring Samantha Mathis, River Phoenix, Sandra Bullock, Dermot Mulroney
Release dates: July 16, 1993
Running time: 116 min./120 min. (director’s cut)
Country United States
Language: English

80’s | Sidney Lumet’s “Running on Empty”(旅立ちの時)

シドニー・ルメット監督と言えば、『十二人の怒れる男』、『セルピコ』、『狼たちの午後』などの社会派映画の先駆的存在である。『旅立ちの時』(Running on Empty)という邦題が付けられたこの映画は、ホームドラマの体裁を採りつつも、主人公アニー・ポープ(Christine Lahti)が、国と家庭というそれぞれのユニットの中で翻弄されながら、愛することを体現しようとする姿が巧妙に描かれている。

活動家としてベトナム反戦運動に身を投じ、軍事研究所を爆破したアニーとその夫アーサー。二人は子どもを連れ、FBIから逃亡する潜伏生活を送るようになる。そんな両親のもとに育った息子ダニーを好演したリバー・フェニックスは、この映画でアカデミー助演男優賞にノミネートされている。確かにこの映画を観たら、多くの人が早世してしまったことを惜しむ理由がよくわかる。言葉では説明できないナイーブさが滲み出ているというか。ちなみに、劇中のピアノのシーンは本人が演奏している。音は吹き替えだけれど。

‘70年代、アメリカで起きたベトナム反戦運動については、想像を超えるものがあり、軍事研究所を爆破するほどの過激な活動に身近なリアリティを感じるのは難しい。アニーは自分の若かりし頃の行為によって息子に不自由を与え、自分自身も逃亡生活に疲れ果てている。かつて反戦、反体制を標榜し、変革に身を投じたアニーは、逃亡生活のなかで息子を家族というユニットの中で苦しめていることに気付く。高い理想に燃えた情熱は途絶え、空しさを抱えながらの人生。それでも、アニーのひたむきな愛情は家族を新たな段階へと導いていく。

70年代のアメリカが残した余韻を、ひとりの女性とその家族を通して静かに描き出した秀作。決してハッピーエンドとは言い切れないけれど、ひとりの人間が社会へコミットする意味や家族を愛することの尊さを考えさせてくれる作品である。

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Running on Empty(1988)
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Directed by Sidney Lumet
Written by Naomi Foner
Starring River Phoenix, Judd Hirsch, Christine Lahti, Martha Plimpton
Cinematography Gerry Fisher
Release date(s): September 9, 1988
Running time: 111 minutes
Country: United States
Language: English
Color: Color (Technicolor)